HARG療法は本当に99%の人が発毛するのか?
AGAクリニックでの薄毛治療について調べていると必ず目にする『HARG療法』
「発毛率99%」
「様々な原因の薄毛にも効果がある」
「男性、女性問わず施術できる」
「副作用などの危険性はまったくない」
「医療費は1回10万円前後」
HARG療法を行っている病院のサイトをナナメ読みするとこんな言葉が目に飛び込んできます。
実際のHARG療法とはどんな薄毛治療法なのでしょうか?
このページではHARG療法について患者目線で徹底解説します。
ハーグ療法(HARG療法)とは
ハーグ療法とは、Hair Re-Generative medicationの略で、日本語にすると「毛髪再生医療」という意味です。
再生医療を応用した薄毛治療法で、世界各国の共同研究で開発されました。
ハーグ療法は『日本医療毛髪再生研究会』によって認定を受けた医療機関でしか受けることのできない治療法です。現在、日本全国の病院180院以上が施術を行っています。海外でも行われている施術です。
日本ではHARG治療センターの福岡大太朗院長が開発者とされています。HARG治療センターのサイトでは発毛率99%を謳っています。
HARG治療センターのサイトからの引用です。
HARG療法は、人間のあらゆる細胞の元となる「幹細胞」から抽出した150種類以上もの「成長因子」を含むタンパクAAPEを直接頭皮に注入して発毛機能を蘇らせる再生医療です。
HARGカクテルを注入した頭皮は「幹細胞」が強力に刺激されて活性化し、自らが「成長因子」を分泌し続けるため、発毛が継続します。あらゆる薄毛に効果を発揮し、治療が終わっても発毛が続く、薄毛を根本的に「治す」ための治療です。
同サイトによると、どんな原因の薄毛にも対応でき、男女も問わず、発毛効果が継続するので長期的に見た場合にメソセラピーやプロペシアなどの長期使用に比べて医療費は安くなるとしています。その上、発毛率は99%です。
これが真実ならまさに夢のような薄毛治療法ですね。
どんなメカニズムで発毛させるのか
HARGカクテルと呼ばれる薬剤を注射やレーザーを使って直接頭皮に注入することで発毛させます。
HARGカクテルとは何かというと、AAPEとメソカクテルを合わせたものです。
AAPEは細胞の成長を促すタンパク質(細胞成長因子growth factor)のことです。脂肪由来幹細胞培養液の中で幹細胞を育てていく過程で、細胞が何種類ものサイトカインや成長因子を培養液中に放出します。その中には発毛に関わりの深いFGF7や、FGF1、FGF2、VEGF、IGF、HGFなどが含まれており、それらの集合製剤をAAPE(幹細胞抽出増殖因子蛋白質)と呼びます。
メソカクテルはビタミン、血行促進剤、コエンザイムQ10などを含む薬剤です。
メソセラピーではメソカクテルを主として数種類の成長因子を配合したものを使いますが、HARG療法ではメソカクテルに加えて、150種類以上の成長因子が入っているAAPEも配合し発毛効果を上げるということですね。メソセラピーとの大きな違いはAAPEが入っていることです。
HARGカクテルが頭皮に注入されると、ヘアサイクル(毛周期)が乱れて休止期状態になってしまている毛母細胞が刺激され、細胞分裂が促され休止期から成長期へ状態が移行します。ヘアサイクルが正常化された結果、発毛したり、産毛のうようになっていた軟毛が太くコシのある硬毛にしっかりと育つようになります。
ハーグ療法では治療が終わっても効果が続くとされていますが、その理由は、HARGカクテルを注入された頭皮は幹細胞に刺激が与えられることで活性化し、幹細胞自らが成長因子を分泌し続けるためです。そのため、HARGカクテルの注入が終わっても発毛が続くというわけです。
施術はどのように行うのか?
HARGカクテルを頭皮に注入する方法はいくつかあります。
一番ポピュラーなのは注射針を使うパピュール法です。頭皮に直接注射してHARGカクテルを注入する方法で、発毛効果が大きいとされていますが痛みを伴います。
パピュール法の欠点である痛みを軽減するためにレーザーを使ったフラクショナルレーザー法などがありますが、薬剤が届きにくくなるので発毛効果が弱くなってしまいます。一長一短ですね。
注入する頻度は3~4週間に1度程度で、通院をして頭皮に薬剤を注入します。
早い人では3ヶ月くらいで効果が現われ、6ヶ月くらい経つ頃には多くの人に発毛実感が感じられるとされています。HARG治療センターのサイトには94.4%の人が4回目の施術を受けた後で満足していると記載しています。通常、プロペシアやミノキシジルを使った薄毛治療でも治療を開始しても髪の毛がしっかりと伸びてくるまでは効果を実感できず、治療開始から3~4ヵ月後になると髪の毛が伸びてきたことで実感する人が多くなります。HARG療法も同じくらいのスパンがかかるということですね。
十分に効果が出た後は、フォローアップ治療と言って2ヶ月に1度くらいの頻度で2回くらいHARGカクテルを注入し、その後は1年に1回くらいの頻度で注入すれば効果が持続します。AGAの場合は、最終施術から6ヶ月以上期間が開くと再び脱毛が起きる可能性があるので定期的な注入が必要になります。ですから、永久に効果が継続するわけではありません。
施術を受ける回数は、通常は8回~12回くらいまでで終わる患者さんが多いです。
一番ポピュラーな注射器を用いた施術では、注射の打ち方が浅いと効果が出にくいことがあるなど、医師の熟練度も発毛効果に影響があります。
他のAGA治療と同じく、AGAが原因で完全に毛髪が失われて5年以上経っている人は、毛根が死滅してしまっているのでハーグ療法も効果がないことが多いです。また、未成年や妊娠中の方は避けたほうが良いでしょう。
ハーグ療法のメリット
①安全性が非常に高い
培養上清液中の成長因子を用いるので他人の幹細胞の培養液であっても使用できます。細胞自体は用いないので癌化などの危険もありません。
HARG療法では韓国Prostemics社が製造しているヒト脂肪幹細胞由来培養上清を使用しています。この脂肪幹細胞抽出に使われる脂肪組織は、生化学検査を行ってウイルス感染が認められず、既往歴(過去の病歴)や家族の病歴などの問題も無い20歳前後のドナーからの脂肪組織を用いています。ですから極めて健康な人の脂肪組織を使っています。
さらに、注入する成長因子は、脂肪幹細胞を培養してタンパク質だけを取り出し、それをろ過してウイルスを取り除いた後にさらにγ線で殺菌を行っており、アレルギー起因物質も含まれていないので、非常に安全性が高いです。
アメリカのCTFAに安全性を承認されていますし、臨床的にも20,000例以上の施術が行われていますが1件も重篤な副作用は確認されていません。
②様々な原因で起きた薄毛が改善する
AGA、円形脱毛症、女性のAGA、びまん性脱毛症などが改善します。薄毛となるメカニズムはそれぞれ違うのですが、原因に関わらず改善するというのは大きなメリットですね。
③男女を問わず施術できる
薄毛治療においては男性と女性で使う医薬品や治療方法が異なることが多いですが、HARG療法は男女関係なく行えます。
④病院によっては発毛率99% 4回目の施術後の満足度94.4%
数字だけ見ると驚異的な効果です。インチキ育毛剤の広告を見ているようです(笑)
フィナステリドとミノキシジルを併用した場合の効果より高いかもしれません。
ハーグ療法のデメリット
①治療費が非常に高額
保険適用外なので高額の医療費がかかってしまいます。
②長期間の治療が必要になる
6~12ヶ月くらいの長期間継続して治療を受けなければならず、長引けば治療費もその分だけ上積みされます。通院のための時間も作る必要がありますね。
③頭皮に注射をするので痛みがある
1回の施術は10~30分ほどですが、痛みがあります。痛みを抑えるために冷却や注射麻酔を使いながら行いますが、感じる痛みの程度には個人差があり、中にはかなり痛かったという人もいます。そのため、麻酔の専門医がいる病院ではマスク麻酔(ガス麻酔)を使って寝ている間に無痛で行うところもあります。
④本当に高い効果が期待できるのか疑念がある
これについては後述します。
費用
180以上の病院でHARG療法は行われていますが、だいたいの価格帯は、1回8~15万、6回で48~90万、フォローアップ治療を加えると100万円を超えるという感じです。回数によっても大きく変わってきますが、金銭的には負担の大きな治療になります。
高額な治療費を除けば夢のような治療法に見えるが・・・
発毛効果は99%以上、4ヶ月で94.4%の人が満足する、副作用なし、効果も続くので最初の治療が終わればその後は1年に1回程度の施術で良い・・・。HARG療法は良いこと尽くめに思えますね。
しかし、一部の医師からは次のような指摘がされています。
「実際にHARG療法を受けた患者やHARG療法を施術していたドクターの話からは99%とは思えない」
その医師が聞き取りをした患者たちの満足度は一様に低く、HARG療法を実際に施術していたドクターも「30%程度の患者が満足すればいいかな」というレベルだと言います。
発毛率99%の根拠とする論文や比較試験がないですし、ここの口コミを見ても全く効かなかったという人が大勢いるようなので、発毛率99%は本当なのかな?と疑念を持たざるを得ません。
凄まじい効果が実証されていてかつエビデンス(科学的根拠)レベルが高いのなら、日本皮膚科学会がAGAや円形脱毛症などに対する最適な治療法としてHARG療法を強く推奨しているはずですが、今のところそれもありません。日本皮膚科学会が公表しているAGA治療のガイドラインの中でエビデンスレベルが高く強く推奨されているのは、フィナステリド、ミノキシジル外用薬、自毛植毛のみです。
HARG療法とプロペシアやミノキシジルの併用をしている病院も多くあり、その場合の発毛率はHARG療法単独の効果とは言えませんしね。プロペシアとミノキシジルだけで98%の人に改善効果がありますから。
さらに大きな問題点として、HARGカクテルは病院毎に使用する量や配合する成分が異なります。これでは発毛率が病院によって大きく変わってくる可能性があります。どこの病院へ行っても同じ治療を受けられるわけではないということなので、期待する効果が出ない可能性は高くなります。そのためか、「極端に格安の値段設定でHARG療法を行っている病院はHARGカクテルの有効成分が削減されている可能性があるので注意してください」とHARG治療センターでは注意喚起しています。
人によっては実際に大きな効果があるかもしれませんが、費用対効果が本当に高いとは一概に言うことができませんね。
私個人の考えとしては、フィナステリドとミノキシジル外用薬の治療でうまくいかなかった時や難治の円形脱毛症になってしまった時に、次の選択肢のひとつとしてHARG療法を検討すればいいのではないかなと思います。そういった場合には試してみる価値はありそうです。
HARG療法は非常に高額で、自毛植毛と比較しても割安とは言えませんし、エビデンスレベルの高い医薬品の治療と比べたらコスパは低そうです。病院が発表している効果と口コミの評判にはかなり大きな差がありますし、全ての病院で同じ効果を得られるわけではなく、現時点では問題点が多いと言えます。ですから、AGA治療を始めたばかりの一番最初の段階においてはHARG療法を選択する優先度は低いように思います。
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