脂漏性皮膚炎と市販薬
皮膚科での脂漏性皮膚炎の治療は、最初に炎症を抑えるためにステロイドの軟膏を塗ることから始まります。
炎症を抑えつつ、マラセチアという皮膚炎の原因菌を減少させるためにケトコナゾールのローションやシャンプーなどを使って時間をかけて治療していきます。
前回の記事では、マラセチアの増殖を抑える働きのあるシャンプーやボディーソープを中心に紹介しました。
今回の記事では、ステロイド剤にはどんなものがあるのか、医療用医薬品や市販薬などについて紹介していきたいと思います。
そもそもステロイドとは、どんな医薬品?
ステロイドは炎症を鎮めることに特化した薬です。副腎皮質ホルモン剤とも呼ばれます。
様々な病気の治療に使用されていて、中にはステロイドを投与しなければ死の危険がある病気が数多くあります。
脂漏性皮膚炎においてはステロイド外用剤の作用は炎症を抑える(抗炎症作用)のみです。
炎症を抑えて症状を一時的に治すことはできますが、脂漏性皮膚炎の原因とされるマラセチアの増殖を止めることはできません。ステロイドを塗ると炎症が治まるので完治したと勘違いしてそこで治療をやめる人がいますが、根本的な問題を解決したわけではないので使用を中止した途端にまた再発してしまいます。
ステロイドは副作用が出ることがあるので漫然と塗り続けることができません。1~2週間ほどの短期間の使用に留めるべき薬です。
ステロイドの効果には5段階があり、強い順に、strongest > very strong > strong > mild > weakというようにランク付けされています。
脂漏性皮膚炎で炎症が起きやすい顔や鼻の横の皮膚は薄く、副作用が出やすいので作用の穏やかなもの(mild)が使われ、身体や頭皮にはやや強めのもの(mildやstrong)が使われます。どのステロイドを使うかは医師が炎症の強さと身体のどの部位に使用するのかを考えた上での判断によります。本来は患者にも詳しい説明がされるべきですが、「ステロイド剤を出しておきますね」としか患者に伝えない医師も多いようです。
このようなステロイドの特性を考慮して、脂漏性皮膚炎の治療ではまず肌の炎症をステロイド外用剤で抑えて症状を緩和させます。次に問題の根本を解決するために抗真菌剤を用います。マラセチアを抑えることで脂漏性皮膚炎の再発のリスクを低下させます。ステロイドは治療の初期段階で使って、その後は抗真菌剤のみで真菌の増殖を抑えていくわけです。それら治療薬と合わせて、洗顔、洗髪、食生活、睡眠などの生活習慣を改善するなど、二度と再発しないためには患者の努力が必要です。
・副作用について
「ステロイドは怖い」「なるべくなら使いたくない」と言う人もいます。
副作用が出ることがあるという理由からです。ここで勘違いしてはいけないのは、ステロイドの副作用は脂漏性皮膚炎に使われるような外用剤(軟膏、クリーム、ローションのような塗り薬)と、他の病気で使われる内服薬(飲み薬)や点滴投与の場合では副作用の出方はまるで違うという点です。
外用剤の場合の副作用は局所的副作用と言われるもので、外用剤を塗った場所にだけ副作用が出ることがあります。
代表的な症状は次のようなものです。
「皮膚が薄くなって弱くなる」
「毛細血管が太くなって赤く見える」
「皮膚が白っぽくなる」
「うぶ毛が太くなる」
「ニキビができる」
「水虫やカンジダなどに感染しやすくなる」
これらの症状は一過性のものなのでステロイドの使用を中止し、適切に処置すれば治ります。また正しく使用すれば通常このような副作用は出ませんので、専門医が正しく判断し、患者に説明し、患者は用法容量を守って使えば問題ありません。もし担当医の言う通りに使っていて副作用が出たのなら、担当医の責任ですね。
・軟膏、クリーム、外用液(ローション)は何が違うのか?
ステロイドや抗真菌剤などの外用剤では、軟膏やクリームやローションというような違いがあります。
軟膏はワセリンなどの油が基材となっているため保湿性があるのですがベタつきもあります。刺激性が低いことも利点です。
クリームは軟膏よりも保湿性が落ち、ベタつきは少ないです。
外用液はべたつきがなく使用感が良いですが、保湿性もありません。刺激性は強めですが、浸透力が高く効果が出やすいという利点もあります。
脂漏性皮膚炎にステロイドはどの程度効く?
ステロイドは脂漏性皮膚炎の炎症に対して即効性があり非常に良く効きます。早い人では2日くらいで症状が緩和し始めます。
重症である場合には、皮膚科の専門医に処方してもらいましょう。重症ではステロイドが欠かせません。
炎症が軽度であれば、自分で市販薬のステロイドを選んで使っても十分に効果があります。
具体的にはどの薬を使えばいいのか?
皮膚科で脂漏性皮膚炎の治療薬として処方されるステロイド外用剤は、キンダベート(mild)、リドメックス(mild)、グリメサゾン(mild)、ロコイド(mild)、リンデロンV(strong)などです。
強さはmild(下から2番目)のものが多いですね。
基本的には皮膚科医に処方してもらうのが一番良いですが、市販薬でも効果が得られるものがあります。症状が軽い場合や、事情があって皮膚科に行かない場合には市販薬を使って自分で治療するのもひとつの選択です。脂漏性皮膚炎は再発しやすいですし、急に再発した時のために自宅に市販薬をひとつ常備しておけば安心ですね。
ステロイド外用剤 市販薬(OTC)
比較的効果が穏やかなステロイドがアイドラッグストアーやamazonなどのネット通販、薬局、薬店で販売されています。
・ムヒHD
痒みと炎症を抑える効果があります。
PVA(プレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステル)という比較的副作用を起こしにくいステロイド成分(mild)が配合されていて、この成分が炎症を鎮めます。
ジフェンヒドラミン塩酸塩はかゆみを抑えます。
アラントインパンテーノールで傷ついた頭皮の修復を行い、イソプロピルメヂルフェノールで雑菌の繁殖を防ぎます。
脂漏性皮膚炎や頭皮湿疹の症状に適した効果を持っていて顔や頭皮などに塗るタイプの医薬品なので、自分で治そうという時には試してみる価値があります。
まずは5~6日間使用してみて、症状が改善しない場合には皮膚科へ行って医師に相談しましょう。
・テラ・コートリル軟膏a
ヒドロコルチゾン(mild)というステロイド成分が配合されています。
オキシテトラサイクリン塩酸塩という抗菌力のある成分も配合されていて、化膿を伴う湿疹・皮膚炎に効果的です。
ステロイド以外に脂漏性皮膚炎の治療で使われる医薬品
抗真菌剤
脂漏性皮膚炎の原因とされているマラセチアを抑えるために、抗真菌薬が使われることがあります。ケトコナゾール、イトラコナゾール、ミコナゾールなどのイミダゾール系抗真菌薬と呼ばれる薬です。
皮膚科では主にニゾラール(ケトコナゾール)が抗真菌剤として処方されます。ニゾラールは真菌(マラセチア)を殺菌する効果が医学的に認められている医薬品で、抗真菌剤を選ぶ際は第一選択薬となります。
水虫の薬のような他の抗真菌剤もマラセチアに効く可能性はありますが、客観的な臨床試験がおこなわれていないため効果があるのかは医学・薬学的に不明です。
脂漏性皮膚炎の基本的な治療法は、ステロイドで炎症を抑え、抗真菌剤でマラセチアの増殖を抑えて炎症を再発させないことなので、ステロイドと合わせて抗真菌剤を使うことが望ましいです。
個人輸入で買えば医師の処方箋なしにニゾラールクリームが購入できます。病院には行かず自分で治療する時には個人輸入を通じてニゾラールクリームを購入すると良いでしょう。アイドラッグストアーでは価格も高くはありません。
1日2回患部に塗りましょう。
抗ヒスタミン系外用薬
かゆみや炎症が酷い場合は、外用ステロイドや抗真菌剤に加えて、かゆみを鎮めるための抗ヒスタミン剤が用いられることがあります。
ジフェンヒドラミン塩酸塩を有効成分とする塗り薬で、保湿効果があるので、肌が乾燥している場合にも効果があります。
市販薬ではムヒソフトGXやラナケインSが代表的です。
ムヒソフトGX 乳状液
ラナケインS
漢方
信頼性の高い臨床試験データなどはありませんが、皮膚科医の中には経験的に漢方が効くことがあると言う医師もいます。
十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)
様々な皮膚病に用いられる漢方薬です。漢方に詳しい皮膚科医などは、脂漏性皮膚炎にも処方することがよくあります。
黄連解毒湯(おうれんげどくとう)
発赤が強い脂漏性皮膚炎に用いられます。
その他に柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)、消風散(しょうふうさん)などが処方されることがあります。
漢方薬には様々な効果がありますので、個人で購入して試すよりも漢方を専門とする医師や薬剤師の意見を聞いてから処方してもらいましょう。
栄養補給
皮膚科の脂漏性皮膚炎の治療においてビタミン剤が処方されることがよくあります。
これはビタミンB群の皮脂代謝を正常化する働きを助けるためで、ビタミンB群が欠乏していると皮脂の過剰分泌が起こりやすくなってしまうためです。
現在脂漏性皮膚炎の治療中の人だけでなく、完治後の予防のためにもビタミンB群の含まれた医薬品やサプリメントで栄養補給をしておくのは非常におすすめです。
栄養補給商品にもいろいろありますが、肌のためにはビタミンB2、B6が含まれているものを選びましょう。
チョコラBBプラス
湿疹、皮膚炎、肌荒れ、ニキビなどに効果が認められている第3類医薬品です。
ビタミンB2を中心に、B6、B1などが入っているのでおすすめです。